当方、アズ監を推している者ですが






 アズールと双子の悪巧み──もとい我らのオクタヴィネルが中心となった一騒動は幕を閉じた。その最後の仕上げに、アトランティカ記念博物館になにかを返すやら返さないやらでアズールは双子やオンボロ寮の監督生たちを連れていくことになった。何故か俺まで「一緒に来てください」と引っ張られたのはつくづく疑問だったが、どうせ暇だったのであえて断る理由もなく、おとなしくアズールのあとについてきた。


「……あなたは人魚ではないんでしたね」


 貸し切り状態の博物館で監督生たちの到着を待っている間、手持ち無沙汰になったのだろう、アズールは俺に話しかけてきた。


「まあ、見ての通り。アズールこそ人魚なのに、人間のままじゃん」

「僕はいいんですよ。……今度、人魚に変身できる魔法薬でもあなたに作ってあげましょうか。特別に無償で」

「人魚になりてーわけじゃねえし、別にいいわ」


 アズールから『無償』なんて単語が聞けたのは驚きだったが。
 暇潰しにいじいじと爪の様子を確かめる俺の横で、彼はなぜかぐ、と奥歯を噛み締めた。


「……そうですか。気が変わったらいつでもどうぞ」


 いや、変わることとかないけど。海は好きでもそこに住みたいとまでは思わないし。

 やがて監督生たちが到着して「なんで先輩までいるんですか」「それはアズールに聞いて。俺にも分かんない」なんてやり取りを交わして。まもなくふらふらと揺蕩い始めた双子から目を離すわけにいかず、俺がアズールを置いて一時場を離れてすぐのことだった。





「努力は、魔法より習得が難しい」





 感動に打ち震えるとは、まさにこのこと。
 やっと、やっとアズールの努力をまっすぐ見つめてくれる存在が現れたのだ!

 ジェイドやフロイドも本心では認めているくせに、はっきり彼に伝えてやらないものだからややこしい。たまにそれが原因で口論になったりもしているのだ、あの三人組は。今後は監督生を見習って、あれぐらい直球に向き合ってほしいものである。

 アズールの頑張っている姿を知っているのは俺だけなのではないか、逆にもう俺の幻覚なのではないか。最近そこまで来ていた疑念が一気に解消された。そうなの! その子めちゃくちゃ頑張り屋さんなの!

 もう俺の心は二人を応援する気持ち一色に染まった。監督生、色々と残念なところもあるけど良いところも同じぐらいあるから、アズールのことよろしくお願いします!

 ……なのに。当のアズールときたら。




「知っていますよ、そんなこと」




 あっさりフラグを折るんじゃねえ馬鹿野郎───!

 そこは「努力……僕が?」みたいに盲点を突かれて戸惑う場面であって! そんな鼻で一笑に伏していいシーンじゃないの! いまなら間に合うから取り繕って! おまえそういうの得意じゃん!

 柱の影から拳を握りしめた俺が見守る中、アズールは監督生から顔を逸らした。


「……僕が目的達成のために積み重ねてきたものをそう呼びたいのなら、好きにすればいいですがね。僕個人は努力なんて思っちゃいません。ただ当たり前のことをしてきただけだ」


 その、目が。
 どうして、こちらを、見て───


「あなたより前に、同じようなことを言ってきた人がいましてね。僕が頑張っているからだとかなんとか、いま思い返してもふざけたことです」


 ニコリ、と海の悪魔は微笑んだ。


「ああ、しかし。彼の言葉に間違いがなかったと分かるのは素直に喜ばしい。彼に対する僕の評価にも過ちはなかったのだと分かりましたから」


 …………ねえ。なんで俺に笑いかけてんの、あいつ。

 違うじゃん! もう何もかも違うじゃん! おまえが笑いかけるべきなのは隣の監督生! なんで監督生まで「アズール先輩にも大切な人がいるんですね。分かります」なんて呑気に頷いちゃってんのかな!?

 俺は決意した。学園に戻り次第、奴らの元へラブロマンス映画を百本送りつけてやろうと。まずは『雰囲気』を理解させるステップからじゃーい!





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