猥談





「―――あっ、ま、って」



 私の言葉も聞かず、彼は性急に腰を振る。女の性で、私は嬌声を上げるしかない。それが彼を煽るだけだとしても、だ。

 この行為に深い意味はなく、だから無遠慮に繰り返された。私が中学校に入ったときが初めてだったから、もう回数を数えるのもバカらしいほどやっていることになる。私が小さい頃は「童に手を出す趣味はない」と顔をしかめていたくせに。

 せめてもの抵抗で口を閉じて、声を堪える。彼はそれが気に食わなかったのか、眉をひそめた。それでも耽美なその顔が近付いた、と思ったときには、唇が重なっていた。
 私の意地を舌がこじ開けて、逃げようとしたが絡め取られた。いやらしい水音が上のものなのか下のものなのか、もう解らない。



「ん、……っふ」



 つ、と伸びた銀の糸を舌で舐め取って、彼は不敵に笑った。嫌な顔だ。

 その余裕っぷりが気に食わなくて締め付けてやる。彼は驚いたように目を丸くしてから、面白がるように速度を増した。違う、別にそういう勝負じゃない。

 これが彼なりの思いやりなのだと解ってはいても、この儀式じみた行為にたいした感慨は抱けない。

 溜め息をつく代わりに、私はまた嬌声を上げる。




   








 私の身体は、私が望もうが望むまいが魔力を生産し、貯蔵する。それこそ私が死ぬまで、半永久的に。
 しかし際限なく生産し続けるとはいえ、その器にまで底がない道理ではない。貯めすぎれば器が溢れ、機械で例えるならオーバーヒートじみた現象が起こる。

 一時的に私という人格が消失し、魔力を安定させることだけに特化した疑似人格が顔を出すのだ。

 意識がないとはいえ、疑似人格が行ったことに対する記憶はある。だから疑似人格に善悪の区別がなく、悪気がないことも解っている。かといって、疑似人格が行うことを容認できるかと問われれば、答えはノーだ。

 私と同じ顔で、しかし私なら絶対にしないことを疑似人格は易く実行に移す。最後に疑似人格が顔を出したときを思い出して、ぞっとした。

 その対策として、オーバーヒートする前に魔力をある程度消費して、安定させる手法がある。他に効果的な策がないため、私は仕方なく定期的にそれを選択している。

 ……ただこれの欠点として、行っているのが私か疑似人格かの違いしかないというのが悲しい。



「何処に行く」



 寝台からひっそりと抜け出そうとしていたら、バレた。彼を起こしてしまった己の不甲斐なさを嘆きつつ、私は首だけで振り返る。



「……すみません。起こしてしまいましたか」

「貴様の気配ぐらい察せぬ我ではないわ」



 ふん、とギルは鼻を鳴らす。金糸のような髪が蠢いて、至高の宝石めいた紅の瞳が私を映した。

 寝台にて、私も彼も裸体。それだけ条件が整っていれば、もはや事の次第を明かす必要はないだろう。



「明日も学校がありますから。あんまり寛ぐわけにもいかないんですよ」

「その学校で無茶を成したというのに、か」

「……その後処理に毎度付き合わせて申し訳ないとは思っていますよ」



 ギルに迷惑をかけている自覚はある。彼の視線から逃げるように、私は顔を反らした。

 聖杯戦争の戦場に学校が予期せず選ばれた先日。幸い死人は一人も出ず、神父と死んだ魚の目で事後処理を済ませてから、反動はきた。

 一時的にとはいえ、学校中に魔力を行き渡らせるほど生産したツケだ。私の身体はオーバーヒート寸前になり、疑似人格が顔を出す間際までいった。
 何とか私としての意識がある内に教会に逃げ帰り、雪崩れ込むようにいつもの如くギルを巻き込んだ。



「違う。そのような言葉は望んでいない」



 頬杖をついたギルは、不満そうに言った。



「……なら、何がお望みですか」

「我の名を呼べ」

「……ギル」



 違う、と首を振られた。仕方なく、私は言い直す。この言い方は子供っぽくて、あまり好きではないのだけど。



「──ギルガメッシュ。私の王さま」



 それでいい、とギルが笑う。同時に腕を引かれ、彼の腕の中に飛び込んでしまった。



「ちょっ、何を!?」

「貴様の王が許す。王に抱かれる栄誉に、しばらく預かるがよい」

「そんな。付き合いたてのバカップルじゃないんですから」

「王に歯向かう気か?」



 本気でないことは解ってはいても、彼には特有の威圧感がある。紅の瞳で睨めつけられてしまえば、私は蛙の如く縮こまることしかできない。



「……学校には行かせてくださいね」

「うむ」



 満足そうにしっかりと抱き締められてしまえば、私に逃げる手段はない。溜め息をつくとバレてしまうので、私は彼に擦り寄るようにして項垂れた。

 私の王さまは昔っからこの調子で、言い負かせた試しがない。



back | top | Next

inserted by FC2 system