RE:4





 観客席で見かけるずっと前から、彼女に目を付けていた。150階クラスなんてほとんどそそられないんだけど、彼女――は別格。異彩といってもいい輝きは、一目でボクを興奮させた。

 尋常じゃない量のオーラを、凪いだ湖面のような静けさで保っている。それだけでが只者でないと看破できた。熟練した念使いのそれとしか思えない佇まいを、あの若さで実現させている。老成というには年齢が足を引っ張るだろう。彼女にまだ成長の余地が残されていることは明らかだった。

 あの強さならすぐに200階まで上がってくるだろうと思っていたのに、いつまで待っても彼女は150階クラスをウロウロしていた。実力不足で苦戦している、なんて馬鹿げた理由ではない。は200階に上がる寸前になると、決まって対戦を放棄ボイコットするのだ。当然不戦敗扱いになり、200階昇格は破談となる。は200階を避けているが何故だろう、なんて常連客の間で話題になっているほど露骨なやり方だ。ボクは何日もとんだ焦らしプレイを味合わされた。

 そんな彼女が、まさか自分からボクの試合を見に来てくれるなんて思わなかったけど。たまにはそそられない奴でも相手にしておくものだね。

 試合を早々に終わらせたボクは絶をして、すぐさま彼女を探しに出た。特徴的なオーラのおかげで探すのはそれほど苦労せず、見つけたは知り合いらしき女と一緒に歩いていた。女はどうやらボクのファンらしく、絶えずヒソカヒソカと鳴いていた。機嫌の良ければ彼女の知り合いならサービスしてやってもいいかな、なんて気まぐれも起こったかもしれない。だけど生憎ボクはようやく焦らしプレイが終わってご褒美が目の前に吊るされた状態だったから、そんな気分にはならなかった。

 女と別れたはエスカレーターを利用するかと思いきや、清掃員以外はほとんど立ち入らない階段へと足を運んだ。まさか彼女ほどの実力の持ち主が、ボクの尾行に気付かないわけがない。誘われているのだと理解したと同時、下腹部に血液が集中していくのが分かった。

 そして彼女は音を立てて踊り場に足を下ろし、振り向いた。



「私に何か御用ですか」



 烏の濡れ羽色の双眸が、ボクの存在を確信していた。

 狂喜ともいうべき寒気に全身が包まれる。やはり彼女は素晴らしい。ボクの欲求不満を満たしてくれる極上の果実に違いなかった。自然と口角が吊り上がる。



「このまま気付かれないかと思って、少しドキドキしたよ。そしたらキミの部屋にお邪魔するつもりだったけどね」



 にっこり笑いかけたつもりだったけど、何故か彼女は訝し気に目を細めた。

 うーん。下心読まれちゃったかな?



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